風の筆「風の筆」タイミング計ったように入院し病気の歩みに伴走の朝 ぴったりの抗生剤に出会うとき相性ばっちり見合い成立 新しい先生の足どんな音リズム早さで性格を知る 薄暗い雲のむこうに光る海肺の曇りを消し去る予感 赤ちゃんの勢い満ちた泣き声を治す意欲のエールにもらう イヤホンに流した童謡近頃はピアノトリオのジャズに休まる 清潔に一度で棄てるカテーテル二度使いたい付き添いの主婦 出勤の看護師さんの背中には尾を引き漂う冷気もう秋 居間からは見えぬ大空スクリーン6階特設青青青の 体内で目立たぬようで確実な白血球たち2万の仕事 病室と家庭の時間を継ぎ合わせ休日の家族さみだれに会う センターで足浴するはず午後一時同じアロマの香りせめても 付き添いのことばと同時に動きだし上映されるわたし分の秋 ラブレ菌キミが来るのを待っていたヨーイドンで徒競走の腸 点滴の失敗あとを見せぬようそっと隠して袖をのばした 一つずつつかむことばの首飾り連なり開く幸運の道 院内の学校新聞鮮やかに友の成長凝縮して見る まだ見えぬことばに開くノブ探す友の道のり確実に待つ ただ一つ問診の中に期待する医師のひとこと退院の文字 すすみゆく紅葉の赤少しとり換気の窓から風の筆入る 変わらない朝日差し込む右上の角度まぶしくほっとする居間 確実に深まる秋の点増やし庭に落とした風の筆跡 若冲の画集の赤こぼれだし市中に散らばり小さき秋になる 刻々と近づく冬を迎えうつ力信じて毛布をかぶる (3007・10・18 2007・10・10~17 急性肺炎にて8ヶ月ぶりに入院) |